初めての体験

私は、まだ3〜4歳。

ある昼下がり、母の運転する車の助手席に乗って、片田舎の家に帰っている途中だった。

到着する一歩手前、最後に大きなカーブを右に曲がるのだが、そのカーブに差し掛かるあたりに1軒の商店があって、そこに寄った。店の前に頭から突っ込んで駐車すると、母だけが車を降り、商店へと入って行った。私はひとり車に残され、ふわふわと物思いに耽ることにした。

 

これまで寄ったことはないのに、このお店に母は一体何の用事があるのだろう。ついて行ってお菓子の1つでも買ってもらえばよかった。ああ、まだ帰ってこないのかなぁ。おうちはもうすぐそこだから、歩いて帰ったらお母さんびっくりするかな。車ってどうやって動かすんだろう。おとなってよく道に迷わずに帰ってこられるよなぁ。この車がいきなり動き出したら、自分ひとりで運転できるかな。今何時なんだろう。帰ったら何をするんだろう。明日はお友達とあれをしよう。

 

そのとき、おもむろに車がバックし始め、車道に出たかと思うと、家の方向に向かって走り始めた。もちろん母はいない。「よっしゃ」これでうちまで帰れたら、きっとみんなに褒めてもらえるに違いない。私は運転席に移り、一生懸命にハンドルを握り、見様見真似で「運転」した。

あぁ、だめだ。「いっかんのおわり」だ。家の駐車スペースには左折で入るのだが、ウィンカーの出し方もわからなければ、左折の仕方もわからない。どうやってスピードを落とすんだろう。ぶつかっちゃう。そんなことを考え始めると、泣きそうになった。

 

泣いていたようだ。床に敷かれた薄い布団の上で母は私を抱え上げ、どうしたのと聞いた。私が事の顛末を説明すると、母は「ごめんね、もう大丈夫だからね、もうそんなことしないからね」と泣きそうな声で言いながら抱きしめてくれた。「お母さんのせいじゃないのに」と思った。

 

夢と現実の違いをはっきり感じたのはそのときで、だからこそ、この夢を私は今でも覚えている。あのときのスリルと不安とわくわくの入り混じった、チョコミントみたいな心地悪さを、今でも思い出せる。

あなたにも忘れられない夢ってありますか?